オーバールックは、ほんの15分ほどで後にした。観光要所を迅速に回れるところがパッケージツアーの良いところ。 次はホテル街に戻って、デューティーフリーショッパーズ(DFS)でお買い物である。 ‥と言っても、うさぎたちはブランド品には興味がない。 それで、チョコレートやクッキーのコーナーで試食品をちょっと摘んだら、食事に行くことにした。
昼食をとったのは、DFSのお隣のTGIフライデーズ。 半年前にできたばかりの店で、アメリカではかなり有名なチェーン店だというので、 新しもの好きのうさぎが率先して行ってみることにした。
ところがTGIフライデーズは、遠かった。隣りなんだけど、遠かった。 道をほんの一本隔てて隣なのだけれど、時は折りしもお昼どき。 ちょうど空に薄くかかっていた雲がどこかに行ってしまい、ギラギラしたお日さまが剥き出しになったところで、 外は灼熱地獄。 信号が変わるのを待つのも苦痛なら、アスファルトの横断歩道を渡るのも苦痛、 入口がDFS側にないので敷地を回り込む、それすらも苦痛だった。 時間にしてみたらほんの1分のことなのだけれど、その1分の長さといったらなかった。
額に汗を滲ませて店に入ると、中は暗く、ひっそりとしていた。広い店内には誰一人としていない。
赤と白のストライプが目印の陽気な店、というのがここの触れ込みだったから、ひょっとして休み?!、
と思ってドキッとした。
〔ここまで歩いてきたのに、それはあんまりだ‥〕と悲嘆に暮れている(?)と、奥から金髪のウェイトレスさんが出てきた。
どうやらまだ11時と、お昼の時間にしては早いので、うさぎたちが今日のランチの一番乗りらしい。
しばらくすると、だんだんお客が増えてきた。
「陽気な店」という触れ込みから、照明が隅々まで行き渡った明る〜い店を想像していたのだが、 店内はあんがい落ち着いたインテリアだった。 壁が濃い茶で、小さな間接照明しかないので、明るい外からやってきた目にはずいぶん暗く感じる。 確かにテーブルには赤と白のストライプの紙が敷かれてはいるが、どちらかというと、凝った内装の大人っぽい店だ。
「ランチタイムは15分確約付き」と書かれた英語のメニューとにらめっこしていると、しばらくして、
愛嬌のある陽気な白人の女の子がオーダーを取りにきた。
ネネはパスタを食べたいと言って「ケイジャン風パスタ」というのを頼んだ。
うさぎはメニューの下に小さく書いてある"spicy"(スパイシー) という言葉が気になって、
「これはかなり辛い(spicy)ですか? 子供には辛すぎると思う?」とお姉さんに尋ねた。すると、
「これが辛い(hot)かどうかを尋ねているの? いいえ、辛くはないわ」という答えが返ってきた。
ああそうか、"spicy" (香辛料が効いている)と"hot"(辛い) は違うのね、とうさぎは納得した。
けれど。運ばれてきたそのパスタは、やっぱり辛かった。うさぎの感覚からすれば、やっぱりこれは「辛い」の範疇だった。
その上、確かに「香辛料が効いて」もいて、慣れない風味だった。ピーマンの匂いだか何だか、ちょっと臭みがある。
これが「ケイジャン風」というものなのだろうか。ネネが一口食べて、げんなりした顔をしたので、
すぐにうさぎのと変えてやった。こんなこともあろうかと、うさぎは安全パイを選んでおいたのだ。
ふわふわのチーズでフタをしたコンソメスープとクラブサンドで、クセのない味。サンドイッチの厚みが豪華だ。
ネネは大喜びでそれを食べ、うさぎは「ケイジャン風パスタ」を口に運びながら、
自分が食べるはずだったサンドイッチを横目で睨んだ。
ああ、母はつらい‥。
きりんの皿はエビのフリッターにチリソースをつけるもので、 なかなか日本のレストランではお目にかかれないエビの量に感激した。味もなかなか。 ただ、付け合わせの黄色と緑のズッキーニは、うさぎ以外、誰も手を付けなかった。 本当にこの人たちは冒険心がないこと。一口くらい食べてみればいいのにね。
豪華なエビのフリッターや贅沢なクラブサンドを横目で見ながら、それでも平らげた「ケイジャン風」パスタの風味は、 後になって効いてきた。食事の後に出たゲップの臭いで、うさぎはそれを思い知った。 その臭いは‥セブンイレブンで朝嗅いだ、あの形容しがたい臭いだったのだ‥。