一体、世界には「スペイン広場」と呼ばれる場所が何箇所あるだろう? 16世紀、「無敵艦隊」と呼ばれたスペインの船団は7つの海を超え、世界中を征服しに行ったから、 スペインゆかりの建造物は世界のいたるところにある。 ここグアムも、スペインによる支配の洗礼を受けた島で、 いまだに「スペイン広場」やら「スペイン橋」やらが観光名所として残っている。 そういえば、恋人岬の悲恋を作ったのも、娘のいいなずけのスペイン人の船長だ。
スペイン広場とラッテストーン公園は、アガニャ地区に道路を一本隔てて向かい合うように建てられており、 まず一行はラッテストーン公園の方を見学した。
ここは割合こじんまりとした公園で、大きな木が生い茂っているので、木陰が多くて涼しかった。 公園の中核を成すのは、「ラッテストーン」とよばれる風変わりな石で、これが花壇の芝生の中に、8本並んで建っている。 なんでもラッテストーンというのはこの辺の島々で発見される遺跡で、この公園にならんでいる8本のそれは、 グアムのジャングルで発見されたものを移設したものらしい。 長さ1mくらいの細長い石の上に、お碗のような形の石が乗っかっているというシロモノ。 なにやら奇怪な形だが、我らがガイド、ジョセフさんによると、それは穀類を貯めておく蔵の支柱で、 お碗型をした上の方はネズミ返しであるという。
ラッテ・ストーン公園の端には、洞窟のくり抜いてある丘があって、その入口には
"Dangerous! Do not enter(危険! 入ってはいけません) "
と書かれた札と、鉄格子が嵌まっていた。
でも、その鉄格子の扉は開いているし、こういうものを見ると、なぜだか入ってみたくなるのが人の性である。
でもさすがに"入ってはいけません"という提言に逆らってまで‥と躊躇していたら、
その立て札が見えないのか読めないのか、はたまた気にしていないのか、果敢にも入っていった人たちがいた。
しかもベビーカーを押しながら!
固唾を飲んでその様子をうかがう――と、暫くして、別のところから出てきた。
うーむ、これはいよいよ入ってみたいじゃないか!
うさぎは「君主危うきに近寄らず」をモットーとする安全志向のきりんに怒られないかな、
とその顔色を伺いながらも、思い切って入ってみた。
洞窟の中はコンクリートで垂直に綺麗に固めてあった。特に広くなっている部分はなく、ずっと通路が続いている。
そして、入口から遠ざかってだんだん暗くなってきたなと思ったら、すぐに出口だった。
‥一体これは何? 昔の防空壕? それにしてはコンクリートの壁がやけに整然としているけれど。
物置かな? でもずっと通路だよ。それに出口と入口がある。別に危険じゃあないのに、あの立て札。
開いている割には思わせぶりな鉄格子‥。ラッテストーンも不思議なものだったけれど、こっちの洞窟も不思議であった。
さて、お次は道路を渡って、スペイン広場へ。ここは先の公園よりもずっと広く、気持ちの良い芝生が広がっている。 そして、その中にある狭いジメジメする通路を通っていったと思ったら、崩れかかったスペイン時代の建物跡の前に出た。 ここでガイドさんの説明が入ったが、残念ながら聞き漏らしてしまった。 通路に落ちていたプルメリアの花をネネの髪に差したらチャアが不機嫌になってしまい、 もう一つ花を探しに行かざるを得なくなったためだ。 ここは木陰もあまりなく、日差しが強くて暑いので、ただでさえチャアはご機嫌が悪かったのに、 ついうっかり触発してしまった。やれやれ‥。
スペイン広場を出てバスへと帰る途中に、アイスのトラックが止まっていた。 見れば、「ウベアイス」を売っているではないか。これはラッキー。「ウベアイス」は、うす紫色をしたタロイモのアイスだ。 グアムならではのアイスだそうなので、一度どこかで食べたいと思っていた。 値段は2ドル。辺りは暑いので、買ってすぐに溶けはじめた。
味は、バニラをちょっとグアム臭くしたような感じ? うさぎはセブンイレブン以来、嗅ぎなれない匂い・食べなれない味には敏感になっていて、 たくさん食べたいとは思わなかった。けれど、意外にもネネとチャアが奪い合って食べた。 もう一つ買ってやろうかなと思ったけれど、バスの時間が迫っているし、 一つしかないと奪い合うけれど二つになったら途端に興味を失う――という子どもたちのパターンをいつも見ているので、 買わないでおいた。すると、アイス屋さんが見かねたのか、もう一つサービスしてくれた。
アイスが二つになっても、子どもたちは喜んで食べ続けた。
うさぎは、「匂いが気にならない?」と訊こうと思ったけれど、やめておいた。
余計なことは言わないに限る。子どもの気は変わりやすいから――。
二つ目のアイスのサービスは、まことにありがたかった。
なぜって、それまで最悪だったチャアの機嫌が、一瞬で直ったからである。