ホガン川をある程度で引き返してきた後、一行は一旦船を下り、タロフォフォ川沿いの小広い広場に上陸した。 リバークルーズのお客の為に、ジャングルはここだけ木が刈り取られ、芝生が敷かれて、きれいに整備されている。
その芝生の上に、ラッテストーンはお行儀良く並んで立っていた。 ラッテストーンとは、グアム界隈でしか見られない、サンゴ石でできた遺跡である。 ここは大昔にチャモロの村落があったところで、このラッテストーンも1000年以上も前からここに立っているらしい。 さすがに風雨にさらされて脆くなっており、コンクリートなどで補強してあるようだ。
ここには本物のラッテストーンとは別にイミテーションもあり、その上に、
椰子の葉で屋根を葺いた簡単な家屋が建てられていた。
「ラッテストーンはね、みなさん。家の土台に使われたものなんです。
昔のチャモロ人は、家の下に死んだ人を葬ったんですよ」とジョーさん。
これには異説もあるようだが、こけしの頭を平らにしたような形のラッテストーンが2列に8つ、
頭の高さを揃えて並んでいるのを見ると、「これが家の土台じゃなくて何なんだ」という気がしてくる。
この遺跡付近には、リバークルーズで訪れる観光客のために様々な種類のハイビスカスや、 グアムならではの変わった果樹なども植えられており、 皆はジョーさんに「これは何?」「あれは?」と質問しながら歩きまわった。
遺跡の散策を終えると、一行はサンゴ石の巨大な岩の側を通って、屋根のある涼しい場所へと案内された。
ここには女性の世話係が一人いて、飲み物を用意して待っていた。
キーンと冷えた砂糖入りの麦茶はとても美味しく、
また、汗をかいた後に冷たい飲み物を振る舞ってくれるという心遣い自体が何とも嬉しかった。
これが有料だと、いかにも足元を見てる感じでいやらしいんだけれど。
さっき遺跡の近くに落ちていて、食べてみたいなあと思った「サワーサップ」の実の試食もできた。
また、ここでは昔のチャモロ人の様々な生活の知恵を見せてくれた。
椰子の葉や実で作る様々な生活の道具や、椰子の枝を使った火起こしなど。
火起こしは、パウさんがエンピツのように先の尖った枝を板に擦りつけると、2〜3回擦っただけで煙が出、
10数回も擦ると、立派に種火がついた。
そして、その種火を乾かした椰子の繊維に付けると、それは1分ほどでボーボー燃えだした。
まるで手品を見ているよう。
こんなに簡単に火が起こせ、こんなに簡単に燃えるのでは、グアムでは山火事が絶えないのではないかと、
ちょっと心配。
火起こしの実演が終わると、これでもうリバークルーズも、元の船着場に戻るだけとなった。 1〜2時間前に船着場で撮った写真がもう出来上がっており、ままりんが15ドルで一枚購入した。
帰りのバスはまたジェフ爺さんの店に寄り、ここでアイスが配られた。 いちご・バナナ・チョコのフレーバーがあり、うさぎはけっこう美味しいと思ったのだが、 周りの反応は捗々しくなかった。 ちょっとクセのある味だからだろうか。 量が多く、カチンコチンに凍っていて冷たかったのも、 冷房の効いたバスからいま下りてきたばかりの面々には有り難みがなく、残している人も多かった。 常夏のグアムでアイスを食べ残すなんて、贅沢な話だ。
タモンビーチのホテル街に帰ってきてバスを降りるとき、ジェフさんがままりんの手を取り、言った。
「大丈夫ですか? どうぞお元気で」
それは非常に丁寧で優しい挨拶だったが、ままりんはそれがレディーに向けられた親切ではなく、
敬老の精神に基づくものだということを、瞬時に感じ取ってしまった。
しばらくしてからままりんは静かに言った。
「わたしも、もうおばあちゃんなのね‥」と。