様々な植物が生い茂る山の中を、うねうねとトラクターで巡り、どこをどう走ったのか分からないままに、 トラクターはふりだし近くまで戻ってきた。
あともう少しで到着、というところで、うさぎは大変な失敗をしでかした。――カメラを落としたのである。
きりんから借りてきた高価なビデオに気を取られ、膝の上に無造作に置いておいたカメラは、
トラムがガタンと揺れた拍子に、地面にころげ落ちてしまった。
金属製のカメラはガツンとにぶい音を立てて地面に叩きつけられた。
カメラは精密機械だ。その音を聞いただけで、うさぎは「ああ、もう壊れたな」と観念した。
ここはふりだしに近いから、トラムを下りた後で拾いに戻ってこよう。
だがその直後、カメラはもっと酷い目にあった。トラムのタイヤにひかれたのである。
うさぎは思わずゾーッとした。一度、二度。カメラは次々とやってくるタイヤにひかれた。
うさぎは思わず目をつむった。ペチャンコになったカメラを見たくなかったのだ。
だが。恐る恐る目を開いて見ると、カメラはペチャンコになっていなかった。元の形のままだ。
うさぎは、カメラが三度目に引かれそうになるのを見て、夢中で叫んだ。
「止めて! 止めて!! カメラが潰れちゃう!!」
トラクターはすぐに止まった。うさぎはトラムから降りて、カメラを拾い上げた。
大まかな形は崩れていないが、レンズの蓋部分がひんまがっている。
なのに。レンズの蓋を開けると、カメラはいつものように電源が入り、なんと正常に作動した!
1メートルくらいの高さから落としたのに。トラクターのタイヤに2度までもひかれたのに‥!
多分、レンズ部分が出っ張ったりしていないシンプルな箱型の形状が幸いしたのだろう。 見た目は大分くたびれたが、フラッシュの光るプラスチックの部分にちょっとヒビが入っただけで、 動作には全く支障がない。
うさぎは急にカメラがいとおしくなった。
ああ、ごめん。本当にごめん。
落としちゃってごめん。
ひかれるまで放っておいてごめん。
落としてすぐにトラクターを止めなくて、
本当にごめんね‥。
このカメラは数年前、公募の賞品として貰ったカメラだ。
いつもは一眼レフを愛用しているうさぎだが、今回はビデオも持つ都合で、
この小さなコンパクトカメラを持ってきた。
今までピンチヒッター的な活躍しかしていないカメラなので、これを落とした時点では、
カメラが壊れることよりも、今日これから写真が撮れないことの方を気にしていた。
でも。こんな受難に会ってまで、こんなにぼろぼろになってまで、うさぎのために動いてくれるカメラを見たら、
泣きたくなってしまった。
なんてけなげなカメラなんだろう。なんて良く出来たカメラなんだろう。
これからは、もっと大事にしよう。――そう思った。