空港を出てツアーの現地係員と挨拶を交わしたあと、うさぎたちがまずしたことといえば、
ターミナルビルの窓越しに、雨が降っているかどうかをチェックすることだった。
どうやらいまは降っていないらしい。
でも地面は濡れている。
「やはり傘を持ってきて正解だったわね」と菜々子ちゃんが言った。
ツアー係員は、シャキシャキした日本語を喋る若い中国人だった。 お名前を周潤發ならぬ、周永華さんとおっしゃる。華やかな名前だが、男性である。 「シュウエイカといいます」というので、 「中国語ではなんて読むの?」と尋ねたら、 「シャウウェイワ」と教えてくれた。
うーん、そっちの響きのほうが素敵!
◆◆◆
10分ほどで5、6組のツアーの面々が勢ぞろいし、
バスでホテルへ向かうことになった。
シャウさんは、荷物を運ぶカートをしまい、皆を先導して足早に歩き始めた。
――なぜカートをしまったか、って?
お客が誰一人として大きな荷物を持っていなかったからである。
キャリーケースを引いている者ですら、うさぎたち4人と、あともう一組だけ。
あとの人たちは、驚くほどの小荷物。
バスの中で、うさぎは菜々子ちゃんに耳打ちしたものだ。
「ねえ、前の方に座ってるOLさんたち、
街で持つような小さなバッグしか持ってないんだけど」
あの大きさでは、下着類を入れるのがやっと、というところか。
菜々子ちゃんは言った。
「そうねえ、4日間の旅行だものね、着たきりでも何とかなるかも。
それとも、香港はよく知っていて、こっちで買って帰るつもりなのかしらね」
なるほど、彼女たちの荷物がどう変わるか、これは帰りが見物である。
帰りも一緒になることを期待しよう。
バスがホテルへ到着するまでの時間を利用して、 シャウさんが滞在時の注意を説明しはじめた。 チップのこと、生水のこと。
「生水飲んだら、お腹はたちまちパ〜ピプ〜ペポ〜!
痩せたい方は、飲み放題。
痩せる石鹸なんかより、よっぽど効果あるよ」
これには、それまで半分眠りかけていた子供たちが大うけした。 このフレーズをそっくりそのままおぼえていて、何日も経ってから突然復唱したほどだ。
バスの中では、両替大会も行われた。 シャウさんが皆の席を巡回して、日本円を香港ドルにしてまわったのだ。 予め空港の両替店でレートを確認させ、それより10ドルばかり色をつけるあたり、 さすがは香港人である。 明日は日曜日で銀行が休み、街の両替屋はたまに悪質なのもいる、 少額のカード使用は手数料が取られる――と、 さりげなく、あくまでもさらっと付け加えることも忘れない。
当然のなりゆきで、みながこの両替チャンスに乗った。 もちろん、うさぎも。 とりあえず2万くらい替え、足りないようならばあとはカードで‥と思っていたのが、 なんだか4万も替えてしまった。 香港の街にはあんがい両替できる場所が少ないと、ガイドブックの片隅に書いてあったこと、 そして成田の銀行で見た1ドルにつき2円も高いレートをも思い出して。