ラササヤンの玄関から外へ出ると、そこはむあーっと蒸し暑かった。幸い、雨はすっかり上がっている。 目指すは、ゴールデンサンズの隣りにあるという屋台村だ。
今回の旅行、食事に関してはある計画があった。――なるべく屋台で食べること。 これまでの経験で、「どこの国でも一番おいしいのは屋台売りの食べ物」というのがきりんとうさぎの統一見解だ。 幸いこの国では屋台が発達していて、ホーカーズセンターと呼ばれる屋台村がそこかしこにあるらしい。 ――そんなわけで、初日の夕食も早速屋台で食べようと、蒸し暑い中を歩いているわけなのだった。
それにしても。ここはバツーフェリンギ通り、言わばホテルロードだというのに、歩道の状態がひどい。 幅が狭くてガタガタだ。しかも歩道の脇には深さが一メートルほどもある溝がぽっかり口を開けていて、安心して歩けない。 暗がりで足元も良く見えないというのに。まるで綱渡りをしているようだ。
暗い夜道が続いていたラササヤンの前を通り過ぎ、ゴールデンサンズの前に差しかかると、少し賑やかになってきた。 道の向こう側には、オープンエアのレストランや店屋が並び、歩道の脇の溝の上にも露天が危なっかしげに立ち並んでいる。 台の上には、更紗のサンドレスやら偽ブランド物の時計やら陶器やらが所狭しと並べられている。 ちょいと指でつついたら、台もろとも溝の中にガラガラガッシャーンと派手な音を立てて崩れ落ちそうでコワイ。
屋台村を捜して10分ほど歩いただろうか。 なにやら露天がひしめく広場の前を通り、老舗のローンパインホテルを過ぎ、 「エデンフェリンギリゾートホームズRM289,000」という看板を掲げた不動産屋の前を過ぎようとしたあたりで、 〔これはおかしい〕と気づいた。どうやら行き過ぎてしまったらしい。
うさぎたちは、そろそろ目をこすりだした子供たちを連れて、今来た道を引き返すことにした。 どうやら、あの露天がひしめく広場の奥が、目指す屋台村らしい。 ‥だが、掘っ建て小屋が集まり、道の真ん中に粗末なテーブルと椅子が置いてあるのが見えるものの、 しんと静まり返っている。今晩はどうやら休業の様子。しかたなく、うさぎたちは別の店を捜すことにした。