コムタの専門店街の中にあるトイレへ行ったときのこと。
トイレのドアを開けると、床が一面の水びたしであった。
この水は一体?、と思ってよく見ると、それは一つの個室のドアの下の方から流れ出してくるのだった。
――はて。トイレが壊れているのだろうか。それにしては人が入っているようだが。
隣の個室に子供を入れて待っている現地の母親も怪訝そうな顔で、その水を見やっている。
‥と、その水の流れが止まり、個室の中からおばあさんが出てきた。
どうやら壊れてはいないようなので、うさぎは入れ代わりにその水浸しの個室に入り、
和式トイレに似たその便器で用を足した。
そして最後に水を流そうと思って、水洗レバーを探すと‥ない。水洗レバーが、ないのである。
ちょっと焦って探すと、代わりのものがあった。水道の蛇口である。
その水道の蛇口には、ホースがついていた。が、いかんせん、短い。 おそらくこの水道の水でトイレを流すのだろうが、ホースは全く便器まで届くような長さではない。 ホースの先から便器めがけてうまく水を放出しないと、水浸しになる。‥そう、さっきのように。 うさぎは用心深くホースの先を便器の方に向け、蛇口をひねった――と、成功!! うさぎはトイレを流すことに無事、成功した。
この大仕事を終えてふと気付くと、髪の生え際が汗ばみ、掌にも汗を握っていた。 うさぎはほっと胸をなでおろしながら思った。さっきのおばあさんが悪いお手本を見せてくれていてよかった、と。 もしあの"反面教師"がいなかったら、うかつなうさぎのことだ。 不用意に蛇口をひねり、辺りを水浸しにしていたかもしれない。
個室から出ると、うさぎは手洗い場で手を洗った。ここのトイレには、日本と同様、手洗い場があった。
けれど、あとになって、本で読んだところによれば、伝統的なマレーシアのトイレには手洗い場はなく、
トイレを流すときの水で手も洗うのだそうだ。どうやらここのトイレはほんの少しばかり"馬洋折衷"だったようである。