彼が帰った後、きりんは早速、熱冷ましをティースプーンでネネに与えた。 腹痛の方はもう納まっていたので、そっちの薬は必要なかった。
うさぎは、ホテルの売店まで体温計を買いに行った。ドクターが持っていたあのヘンな体温計が欲しい。 売店へと歩いて行くと、ロビーで先のドクターが誰かと立ち話をしていた。 相手も同じ肌色、同じくらいの背丈、同じような顔つきの男性。医者仲間だろうか。
売店の棚には体温計が置いてなかった。
体温計はないか、と売り子の女性に尋ねようとして、うさぎは「体温計」という英単語を知らないことに気がついた。
そこで
「フィーバーメジャー (熱計り??) 」と、即席の造語で言ってみた。
勘のいい売り子さんは「ああ、サーモメーター (Thermometer)ね」と分かってくれた。
そして、仕入れ帳を調べ、踏み台に上り、天袋やら倉庫やらあちこち探して、体温計を見つけてくれた。
それはありふれた体温計だった。しかもメイド・イン・ジャパン。うさぎはがっかりして、
「他のタイプはないかしら」と尋ねた。売り子さんは首を横に振り、うさぎは彼女が一生懸命探してくれたそれを買った。
うさぎが部屋に帰ると、きりんはチャアを連れて朝食をとりにいった。 うさぎはネネの隣に横たわり、しばらく二人で眠った。 何だかうさぎも熱っぽいような気がして体温計で計ってみたら、微熱があったのだ。
1時間後、きりんとチャアが朝食から帰ってきて、うさぎたちも目を覚ました。 きりんたちは、ガーデンウィングにある「ガーデンテラス」でアメリカンブレックファストをとってきたそうだ。 それを聞くと、ネネはたいそう羨ましがった。 うさぎも羨ましかったけれど、せめてきりんとチャアだけでもリゾート生活を満喫してもらいたいと思った。
きりんとチャアは水着に着替え、ゴールデンサンズのプールへと出掛けた。
二人が出掛けてしまうと、ネネとうさぎはヒマになった。
ネネも熱が下がってきたので、ベッドに横たわっている分には、二人とも元気だった。
うさぎは、昨日チャアが買ってもらったおもちゃを枕元に持ってきて、いろいろな形に組んでみた。
それに飽きると、こんどは昨日買ってきた絵本を開いてみた。
本に飽きると、今度はテレビをつけてみた。
テレビにも飽きてしまうと、もう何もやることがなくなった。
ネネはさっきからず〜っと、絶え間なく鼻唄を歌っている。うさぎはこの退屈に我慢できなくなり、ネネに言った。
「ねー、同じ寝てるんなら、プールサイドで寝てようか」
「いいねえ、それ!」ネネの顔がパッと輝いた。
そんなわけでうさぎたちは水着に着替え、格好だけはリゾート気分でゴールデンサンズへと向かった。