海辺をゴールデンサンズへと歩いていく間、うさぎは、ネネに言った。
「きっと、パパは怒るよ。部屋でねてなきゃ駄目じゃないか、って」
「そうかなー、でもそしたらどうするの?」とネネ。
「ママが説得してみるけど‥、駄目だったら部屋に帰るしかないんじゃない」
「え〜、つまんないよー」
ゴールデンサンズにつくと、まずチャアの姿を見つけた。うさぎたちを見つけると、チャアは寄ってきて言った。
「チャアねえ、泳げるようになったんだよ!!」と。
うっそお。ホントにぃ?
「よかったわねえ」と言いつつ、全然信じていないうさぎ。
そうこうしているうちに、今度はきりんがやってきて言った。
「いいところに来たねー、ちょうど昼食を頼んだところだったんだ」
「‥。ママー、パパ全然怒んないじゃん」と非難がましくネネが言った。
朝食抜きだったうさぎとネネは、デッキチェアの上の昼食を見ると、夢中で食べた。
きりんとチャアは朝食ビュッフェで思う存分食べたので、申し訳程度につまむ程度だ。
「お昼すぎだし、何か食べておこうと思ってさ。メニュー見た時は、もっと軽い食事かと思ったんだよねー」ときりん。
ところが意外にも豪華な皿が運ばれてきて、途方に暮れていたというわけだ。
きりんが注文したのは、カニのクロワッサンとチキンサラダ、それにフレッシュジュースだけであった。
けれどクロワッサンはかなり大きく、中にぎっしりとカニ肉が詰まっている。
ちょっとした野菜も付け合わせてあるし、フライドポテトもどっさりある。
「チキンサラダ」も、生野菜の上に大きなチキンがドンと載っかっていて、パンまで添えてある。
確かに、朝食抜きのうさぎとネネでも食べきれないくらいのボリュームである。しかもとても美味しい。
とくに、うさぎは、生野菜に添えられた甘いマヨネーズが気に入って、お腹を壊しているクセに、
サラダをバリバリ食べてしまった。あとで後悔することになるのだが。
食事を済ませた後、皆でチャアの泳ぎを見にいった。
あまり期待してはいなかったのだが、本当にチャアは泳げるようになっていた。
ほんの2〜3メートルだが、立派に水に浮かんでいる。うさぎは感激して尋ねた。
「どうして突然泳げるようになったの?」
「突然じゃないよ。あたしが昨日教えてあげたんだよ」とネネ。
「さっきアラビア人の4歳の子が泳いでてさ、それに触発されて、チャアも練習したんだよね」ときりん。
「アティールちゃんていうんだよ! お友達になったんだ」とチャア。
「あらま、名前まで聞いたの」とうさぎが言うと、きりんが答えた。
「その子の父親と話をしたもん」
「えっ、英語で?!」
うさぎは、口髭生やした立派な体格のアラビア人男性ときりんがサシで話をしているところを想像した。しかも英語で。
いやー、チャアも成長したけど、きりんも成長したもんだ。見知らぬ外人さんと、英語で立ち話ができるようになったとはね。
その後、ネネとうさぎはデッキチェアに戻り、午後の3時間を過ごした。
明るく楽しいプールサイドでの気分は、部屋のベッドにいるよりずっと良かったが、退屈なのに変わりはなく、
ネネはまた鼻唄を歌い出した。
ネネの鼻歌を聞いていると、なんだかこっちまで情けなくなってくる。
「ちょっとアンタ、その鼻歌、何とかならない?」とうさぎは言った。
「鼻歌? 鼻歌なんか、歌ってないよ」とネネ。そういい終わってしばらくすると、また鼻歌を歌いだした。
どうやら、無意識のようだ。
南国のリゾートに来ているのに、プールに入れない――。
ネネにとってそれは、禁断症状を呈するほどのストレスだったのである。