シューマートでのお買い物の最後は本屋さん。 うさぎが本屋へ行くというと、自分たちの買い物を終えて疲れきってしまった他の3人は不機嫌な顔になった。 でも、まだうさぎは何ひとつ買っちゃいない。付き合ってもらう権利があるはずだ。
4回目にインフォメーションデスクのお姉さんに本屋の位置を尋ねると、 やはりバッチリと目を見開いた澄まし顔で教えてくれた。 4回目なのに、親近感を持った風でもなければ、うんざりした顔もせず、淡々と職務をこなす彼女たち。 なんだかバービー人形みたいで、可笑しい。 お姉さんたちに礼を言って踵をかえしたとたん、笑いがふいにこみ上げてきて、吹きだしてしまった。
「インターナショナルライブラリー」という大きな本屋は、お姉さんの言った通り、2階上の右側にあった。
ここでビックリしたのは、フィリピンの言葉で書かれた本が一冊もなかったこと! 本当に一冊も!
‥まあよく考えればそれも仕方のないことかもしれない。書籍の市場は通常、数千万規模の人口がなくては成り立たない。
マイナー言語が群立割拠するこの国で自国語の本を書いても、あんまり売れそうにないけれど。
そういえば、セブに来てから一度も英語以外の言葉を耳にしていない。 ホテルではもちろん、SMのインフォメーションデスクのお姉さんの案内も、マクドの注文も、デパートでも、全て英語。 フィリピンの公用語はタガログ語だとか、セブ地方はセブアーノ語を使用しているとか聞いてきたけど、 そんなの一度も聞いていない。一体ここはどこの国?!
最初に児童書のコーナーを覗いたけれど、どれも英米からの輸入本。
フィリピンらしい雰囲気の本はついにみつからなかった。
それじゃあ仕方がない、観光案内、と思ったら、フィリピンに関する本はほんの数種類しかなかった。
その少なさにはちょっとビックリ。本屋の規模や他のジャンルの充実度と比べ、やけにアンバランス。
観光客の足が向く本屋さんはたいていその国に関する本のコーナーが充実しているものなのに。
さらに驚いたのが、地図! 世界地図を見て驚いた。フィリピンが真ん中にない! 真ん中にあるのはヨーロッパ。
これはきっとヨーロッパから輸入した地図だろうと思ったら、
"Printed in Philippines"、フィリピンで印刷された地図だった。自分の国が真ん中にない世界地図って初めて見た。
自国を中心として世界を眺めることのない国があろうとは。
けれどその地図を見るうち、うさぎはふと思った。
プランテーションベイが、アイデアから施工まで、全てフィリピン人の手によって造られたこと。
モガンボ滝の峰に、フィリピンの国旗がたなびいていること。
いままで特に気にせず見ていたけれど、もしかしたら、それはものすごいこだわりなのかもしれない、って。
国の富のほとんどをスペインで暮らしスペイン人であり続ける人々の手に握られ、
英語を知らなければ本を読むこともできないこの国で、メイド・イン・フィリピンにこだわることは、想像以上に大変で、
また画期的なことなのかもしれない。
また、プランテーションベイのノー・チップ・ポリシー。
これも、ゲストへの便宜だと思っていたけれど、それ以上に従業員をチップの期待から解き放つことで、
フィリピン人の誇りを取り戻そうとしているのかもしれない。
そしてその試みが成功していることは、ゲストにおもねることなく、生き生きと働くクレアたちを見れば分かる。
「外国製」という言葉がそのまま「高級品」を意味した時代は日本にもあった。 そんな時代にも「国産品」にこだわった人がいたから、今の日本がある。 一方で外国に倣いつつ、他方では自国のやり方を守ってきたから、今の日本がある。 緑色の看板に誇らしげに書き連ねられたフィリピン人の名、その意味が今初めて分かった。