Palau  パラオ

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【 グアムにて 】

グアムのオブジェ

いつも思うのだが、まったくどうして米国ってヤツは、飛行機を乗り換えるだけで、 いちいち入国しなくちゃならないんだろう。 われわれはこれからパラオへ行くのだ。 今回、米国に用はない。

尤も、航空券を予約する時点で「米国入国審査料」とやらをしっかり徴収されてしまった身としては、 「こうなったらしっかり審査してもらわにゃあ」という気分にもなっていたりして。
「なんでグアムに入国するの? まだ飛行機に乗るんでしょ?」と言うチャアに
「おおかた米国の財政赤字を縮小するためでしょうよ」と答えてやる。
「でもどうして――」チャアがそこまで言いかけたとき、審査の順番が回ってきた。 入国審査でろくに並ばずに済むのは大変ありがたい。

ところが、そのあとには地獄が待っていた。 乗り継ぎ便の搭乗券チェックを受け、 そのまま入りなおそうとしたら―― セキュリティチェックの前は、恐ろしい混雑ぶりだったのである!

こんな混雑はディズニーランドでしか見たことがない。 ここを通過するには小一時間かかると踏んだ。 三十分で通過できれば超ラッキー、ってところ。
「こういう混雑をパスする裏ワザって何かないの?」とうさぎ。
「さあ、ないだろうねえ」ときりん。
しょうがない、列の最後尾につくとするか。

その長蛇の列に並んでいるのは見事に日本人ばかりだった。 子供もいっぱいいる。 うちの大きなお子さまたちはブツクサ言いたげな表情だが、 周りに並ぶ小さなお子さまはみんないい子にしてる。 そういういい子たちに囲まれちゃあ、お姉さんたちも文句は言えまい。

近くにいた4歳くらいの女の子たちが、手遊び歌を歌い始めた。

「お寺の和尚さんがカボチャの種を蒔きました。
芽が出て膨らんで、花が咲いて、枯れちゃって、
忍法使って空飛んで、東京タワーにぶつかって、
宇宙の果てまで飛んでった。
グルグルグルグルじゃんけんポン!」

「なにあれ?」うさぎは小声で言った。 「"花が咲いて"までは分かるけど、そこで"じゃんけんポン"じゃないの?」
「いや」と15歳のネネが言う。 「"忍法使って空飛んで"まではあるよ。でも東京タワーにぶつかったりはしない」
「えっ、そうお?」と12歳のチャア。 「"宇宙の果てまで飛んでった"まではある。 でも"グルグルグルグル"っていうの言わないな。 手はグルグル回すけど」
――なるほど、じゃんけん歌も進化するわけだ。 ジュゲムジュゲムの長助ちゃんの名とおんなじで。

手遊び歌のおかげで助かった。 セキュリティチェック通過まで小一時間という読みは見事に当たったが、 そう退屈せずに済んだ。 VIVA、幼い子どもたち! 子供ってのはやっぱり社会に欠くべからざる存在だ!

◆◆◆

さて、もう一度空港に入りなおしてからは、自由が待っていた。 次の飛行機に乗るまであと3時間もある! さあなにをして遊ぼうかな。

次のゲートは空港の端っこ近く。 ゲート付近にはまだ誰もいない。 空いてるソファが広いフロアにずらっと並んでるだけ。 こりゃあいい! 貸切だ!!

「ねえ、チャア、走ろう!」とうさぎは言った。 パラオではマラソン大会に出場するのだ。 ここで少しウォーミングアップしとかなきゃ。 冬服を脱ぎ、夏服になってソファの周りをグルグル走る。 もうちょっと身軽だったらとんぼ返りもするんだけどな。 だってここなら転げてもいたくない。

しばらく走って息を切らせ、ソファで休んでいたら、急に賑やかになった。 ゲートが開き、そこから日本人がどっと出てきた。 あれ? もうパラオからの飛行機が着いたのかな。 この人たちはパラオから帰ってきた人たちかな?

近くの電光掲示板に確かめに行った。 すると、大きなガタイの警備員が寄って来て、静かに言った。 「ソファに座って待つように」
えっ? どうして? 電光掲示板を見ていちゃいけないの? それともわたしの聞き違い?
「パードン?」とうさぎは言った。
「ソファに座って待つように」 もう一度警備員は静かに言った。
「でもわたしはこれからパラオに行くの。ゲートはすぐそこで‥」
「ソファに座って待つように」3度目、警備員はまた静かに言った。
ふと彼の腰を見ると、銃が目に入った。 うさぎはおとなしく、ソファに戻った。

しばらくすると、警備員は車に乗って中央へと帰っていった。 それと同時に、張り詰めた空気がふっと緩んだ。 フレーイ! 平和が戻ってきたのだ! うさぎは立ち上がってまた電光掲示板を見に行った。

どうやらさっきのは仙台からやってきた飛行機だったらしい。 なるほど、それで日本人ばかりだったんだー。 うさぎはまた飛び跳ねはじめた。 でもすぐに疲れてしまった。 体力ないなあ、もう‥。 ソファで休んでいると、だんだんまぶたが下がってきた。

「ご案内申し上げます。 パラオ行きコンチネンタル航空974便はまもなく機内へと皆様をご案内いたします」

放送の声にびっくりして目を覚ましたら、 辺りの様子はすっかり変わっていた。 いつの間にやら周りは人でいっぱい! 時計を見ると、おや、1時間半も眠ってしまっていたらしい。 外を見たら、さっきまで真っ青だった空にすっかり夜のとばりが降りていた。

さあ、目を覚まして 飛行機に乗らなくちゃ! いよいよパラオに出発だ。

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