フォトスタジオにカメラを返しに行って帰ってくると、デッキチェアにネネの姿がなかった。 一体どこへ行ったんだろう? ビーチをぐるっと見回すと、いたいた! 人がたくさん集まっている一角があって、ネネやチャアもそこにいた。 手にココナツジュースを持っている。
「ちょっと、それどうしたの?」と走り寄ると、 「あ、ママだ。ママも飲む? おいしいよ」とチャア。
ダイバー夫妻の話によると、今日は週に一度PPRが主催するビーチパーティなのだそう。 カナッペやチップス類、やしの実のジュースなど、 テーブルに簡単な軽食が並べられ、気のおけない立食パーティというところだ。
海をバックに、アトラクションも始まった。 槍を持ち、ふんどしをしめたパラオの男の子たちが、勇ましい踊りを踊る。 小さな子から大きな子まで、どの子もみな真剣な表情だ。
なんという荘厳さだろう‥! 白い砂を踏み鳴らし、勇ましいときの声を、彼らはあげる。 背後で空は金色に輝き、彼らが踊る姿はときおりシルエットになる。 海はまだ青みを残し、彼らのふんどしは赤。 葉を編んで作った首飾りは緑色。 彼らは突然、それを外し、最前列で見ていた人々の首にかけた。
いっとう太った男の子は、ネネを選んだ。 ネネの首に首飾りをかけるとき、彼は一瞬照れた表情になったが、 すぐに顔つきを元に戻し、踊りの列に舞い戻っていった。
彼らの踊りが終わるころには、もう日はほとんど海にくっつきそうになっていた。 彼らが希望者との記念撮影を済ませた頃にはもう、夕日は半分海に沈んでいた。
夕日が海に沈むときの速さといったらない。 まるで海に飲み込まれるかのように、つるんと滑り落ちてゆく。
おしゃべりをやめ、日没を見守っていた人々は、すっかり日が海に隠れてしまうと、 小さなためいきをもらし、三々五々、砂浜から引き上げていった。 パーティは日没と共に、お開きだ。
◆◆◆
ところが、空のスペクタクルは、これからが本番だった。 すっかり日が落ちて、今日はこれでおしまいかと思いきや、 大屋根のレセプションから後ろを振り返ったら、 雲居の隙間にまだ青い空がのぞいているのに気がついた。
低い空は概ね濃い雲に覆われ、くすんだ色をしていたが、 天井だけぽっかりと抜けて昼間みたいに真っ青な空がのぞいていた。 雲の端は金色に輝き、青い空を縁取っていた。
金色の縁取りはどんどん色を増してゆき、 ついには雲全体が金色に包まれた。 さっきまで色のはっきりしなかった海も、今や金色に輝いている。 さあ、今が一番のシャッターチャンス!とばかり、慌ててシャッターを切ったが、 それすらまだ前座だった。
金色の空はますます色を深めていき、辺りはどんどんオレンジ色に染まってきた。 唯一スイミングプールだけが、ネコの目のような黄緑色に、妖しく光っている。
更に、雲はオレンジ色からぶどう酒色へと色を変えたが、 相変わらず雲の縁は、そこに太陽がいるかのような、濃い金色に輝いていた。
辺りが暗くなるにつれ、スイミングプールはますます妖しくネコの目色に光る。 ヤシの木はすでにすっかりシルエットだ。 海はまだオレンジ色のままで頑張っている。 そして空は、日が沈んでもう10分以上も立つのに、まだ青いままだ。
――それがうさぎの見た、一番美しい瞬間だった。 空は青、金色に縁取られた雲は紫、海はオレンジ色に染まり、プールは黄緑色に光っている。 ヤシの木は黒いシルエットに浮かび上がり、 その景色は、唖然とするほど美しかった。