Palau  パラオ

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【 停電 】

電灯

PPRで見事な日没を見届け、キャロランリゾートに帰ってきた頃には、 もうすっかり夜のとばりが降りていた。 レセプションからコテージまでのほの暗い道を歩き、 玄関のドアを開けて部屋に灯りをつけるとホッとした。 ああ、帰ってきた。 もうすっかりここはわが家だ。

今日は長い一日だった。 疲れた。汗びっしょり。 シャワーを浴びよう。

「早い者勝ちよ! ママがイチバ〜ン!」 うさぎはそういうと、ベッドの上でゴロゴロしている皆を尻目に率先してすっぽんぽんになり、 シャワー室に飛び込んだ。 ネネとチャアもそれに続いてやってきた。 シャワー室に3人はちと狭いが、まあなんとかいけなくもない。

3人がたっぷり熱い湯を浴び、いい気分で部屋に出てくると、 入れ替わりにきりんが入った。 「湯がぬるい!」と叫んでいる。

だから、早い者勝ちと言ったろう? 給湯には時間がかかる。 お湯ってのはね、ソルドアウトするものなのだよ、君。

髪をタオルで拭いて乾かしていると、雨が降ってきた。 まあ今降っておけば、明日また晴れるでしょう。 夜の雨は大歓迎だ。

雨は瞬く間に強くなり、大きな音をたてはじめた。 しのつく雨。 雨ってこんなに大きな音で降るものだっけ。 トタン屋根に落ちる雨はバタバタと大きな音を部屋中に響かせる。 雨が空気を切るシャーッという音が絶え間なく続く。 窓の外は暗くて何も見えない。 雨に遮られ、光はどこからも届かない。 まるでこの広い世界に、わが家4人しかいないみたい。 この小さな木造のコテージのほかには何も存在しないみたいだ。

「屋根の下にいてよかったね。家があることに感謝しよう!」とうさぎは言った。 いつも住んでいるコンクリートのマンションはあまりに強靭すぎてありがたみに欠けるが、 この木造りの家は大きな屋根を広げ、我々のために精一杯頑張ってくれている感じがする。

‥と、突然電灯が全て消え、部屋が真っ暗になった。停電だ。 チャアが悲鳴を上げた。

「お湯を使いすぎたからブレーカーが落ちたのかもしれない」 と、うさぎがマヌケなことを言った。 ‥違った、お湯は水道で、ブレーカーは電気だっけ。

「とにかくブレーカーをあげなくっちゃ。ブレーカーはこれかな? ハイ、パパやって」 うさぎはきりんを促した。
「はいよ。‥うん? ブレーカーは落ちてないよ」
「えっ、そうなの? じゃあこの家だけじゃなく、 リゾート全体、もしかしたらこの辺一帯の停電なのかしら」

きりんが何かしたからなのか、勝手についたのか、それはよく分からない。 けれど、そうこうするうち、非常灯がついた。 ‥ああよかった。これで完全な暗闇からは救われた。 皆は虫かなにかのように、非常灯の小さな光のそばに集まった。

「とにかくレセプションに連絡しなくちゃ」 うさぎはベッドのほうへ行き、電話に手を伸ばした。 けれど、受話器からは何も聞こえない。 「ちょっと! これ、へン! 通じない! 壊れたのかな?」 ‥って、違う。電話も電気で動いているのだ、きっと。

さあ、困った。外は雨。傘は持ってこなかった。 この雨の中レセプションまで走ったら、確実にずぶ濡れだ。
「これは小雨になるのを待つしかないな」ときりんが言った。

「ああもう、せっかくトランプやろうと思ったのに、これじゃあできないじゃない!」と チャアが文句を言った。
「何言ってるの! トランプなんて日本でだってできるでしょう! こういうハプニングこそが、旅の醍醐味、メイクドラマよ。 アクシデントがあるからこそ、平穏に感謝できるんじゃないの」

◆◆◆

どれくらい時間がたった頃だろう。 30分? 1時間? ふと雨音が弱まった。
「おお、これはチャンスよ! パパ、レセプションまでひとっ走り行ってきて」
「‥えーっ、やだよ。完全に止むまで待とう」
「そんなこと言ったって、明日の朝まで降り続くかもしれないのよ?! 見てよ、子どもたちのこの顔。トランプができなくて完全にブータレてるじゃないの。 ‥いいわ。わたしが行って来る」 うさぎはきりんのパーカーをひっかけると、まだ雨が降る中を、レセプションまで走っていった。

レセプションには、ちょうど工事人がきたところだった。
「電気がつかないんですけど」うさぎは言わずもがなのことを言った。
「そりゃ停電ですからねえ。今調べるから、電気がつくまで待ってください」 フロント係は鷹揚に言った。

レセプションで借りた大きな傘を差しコテージまで歩いて帰る間、 うさぎは、しーんとして真っ暗なほかのコテージを見上げた。

他のみなは一体どうしているのだろう? レセプションに駆け込んだのはわたしだけ? みな、部屋でおとなしく電気がつくのを待っているのだろうか。 それとも、夕食にでも出かけていて、部屋にいないのだろうか‥?

◆◆◆

結局、それからほどなくして、無事、電気は復旧した。 雨もすっかり上がり、4人は何事もなかったかのようにトランプを始めた。

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