Palau  パラオ

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【 クッキー工場 】

パラオクッキー

早くも三回目の朝がやってきた。 昨日一日中ハッスルたせいで、体中が筋肉痛。 充分に寝たはずなのに、体が重い。 一日中ふとんにしがみついていたい気分だ。

でも、一日寝てつぶすほど時間があるのだろうか。 うさぎはスケジュール表を見ながら考えた。

――なんと、もうそろそろ旅の折り返し地点にきているではないか‥! 帰国はあさっての夜遅く。 最終日はマラソン大会、明日はロックアイランド方面――と逆算してみると、 街に行かれるのはもう今日しかない。 やっぱり昼寝してはいられない。 おかしいなあ、まだパラオに来たばかりなのに、どうしてこんなに時間がおしてるんだろう? おかしいよなあ‥。

とにかく。 まず最初はクッキー工場を見学することにした。 おととい免税店の試食で食べたパラオ産のクッキーがものすごく美味しかったからだ。 それでだろうか、「観光」と名のつくものはすべて大嫌い、 そんなことで時間を潰すくらいなら、一日中部屋でトランプをしていたい子どもたちが珍しく、 ベッドからガバと跳ね起き、 「あのクッキーを作ってる工場?! 行くっ! 行きたいっ!」と勇んで言った。

◆◆◆

それはほんの小さな工房だった。 ――そう、工場というよりは、工房だった。 作っているのは、タピオカクッキーとフルーツクッキーの二種類だけ、 従業員も、パラオ在住の日本人女性とフィリピン女性の二人だけだ。

作り方も、家庭で作るのとさして変わらない。 まず材料を業務用のミキサーで混ぜ、 それを絞り袋に入れて、天板の上に搾り出す。 それをオーブンで焼いたら出来上がり。

オーブンは、家庭用のより大きいとはいえ、ものすごくばかでかいわけでもなくて、 一度に30個くらいしか焼けない。 だから同じ作業を朝から夕方まで何度も何度も繰り返し、 一日に多いときでフルーツクッキー100箱、タピオカクッキー50袋分作るのだそうだ。

クッキー100箱という数字を多いと見るか少ないと見るか。 でもおそらく、このクッキーはパラオ土産として最も売れている商品だろう。 なにしろパラオ産のお土産なんて、他にはほとんどないのだから。

おみやげ用のお菓子というのは、総じてあまり美味しくない。 オーストラリア土産といえばコアラの形、 シンガポール土産とくればマーライオンと、 形は変わっているかもしれないが、肝心のお味のほうは、妙に大味だったりする。

でも、パラオクッキーは美味しい。 ものすごく美味しい。 特に、素朴な茶色い袋に入ったタピオカクッキーは、ものすごくものすごーく美味しい。 形のほうはごくごく平凡で、手作りなだけに、ビシッと形が揃っていたりはしないが、 味は、一度食べたら忘れられない。

サクッと噛むと、ホロッと砕けるその脆さ
口の中ではじけるような、あらびきのツブツブ感‥!

――この食感はちょっと、他では味わえない。

このレシピは、神戸の洋菓子店が考えたものだそうだ。 日本人好みの繊細な味は、そのせいかもしれない。

◆◆◆

お二人の作業員さんがいずれも穏やかで暖かく、居心地が良いのをいいことに、 ずいぶん長居をしてしまった。 そろそろお暇しなくては。

礼を言い、さっき入ってきた小さなドアから外に出た。 パラオクッキー、これは日本人がパラオに伝えた二つ目の"とってもいいもの"だな、と思いながら。

――えっ? 一つ目は何かって?

ひとつ目はもちろん、ストーリーボードである。

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