Palau  パラオ

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【 ミルキーウェイ 】

ミルキーウェイ

パラオには様々な海がある。 中には、「美容に良い海」もある。 ミルキーウェイだ。

そこは奇妙な海だった。 上から見下ろした水は乳白色。 クリームソーダのアイスクリームが溶けてしまったときのような色だった。 青緑色に透き通った海の中で、その一角だけが、 見事なまでにくっきりと、他とは違った色をしていた。

不思議なくらい不透明で、覗き込んでも何も見えない。 こんな海にも魚がいるのだろうか。

この海の底には石灰質の泥が沈殿している。 透明度が低いのは、この泥が水の中にも舞っているためらしい。 でもこの泥は人間の肌に必要な栄養分をたっぷりと含んでいて、肌にたっぷり塗りつけると、 天然の泥パックになるのだそうだ。

早速ガイドさんがじょうごを手に潜り、海底の泥を採ってきた。 みな早速、自分の顔に塗りつけた。 水を含んだ泥は、タプタプしている。 手に乗せると、ぽってり、とよよ〜ん! 触れているだけで気持ちが良い。 うさぎは子供の頃、どろんこ遊びが大好きだったけれど、日本の泥は小石を含んで ジャリジャリしてて、それだけは気に入らなかった。 でもここの泥は、ずいぶんと純度が高いようだ。

ぬれているときはグレイがかって見えた泥は、乾くと真っ白になった。 顔中真っ白。腕も真っ白。みんな妖しいいでたちだ。 こういう人たち、たしかパプアニューギニア辺りにいたわねえ‥。 マッドマン(泥人間)とか言うんじゃなかったっけ?

水深は2〜3メートル。 子供の頃、海の近くに住んでいたというミスター・リーが海に飛び込み、 じょうごにもう一杯、泥をたっぷり採ってきた。

「あたしも泥を採ってくる!」 ネネがマットな海に飛び込んだ。 続いてチャアやきりんも‥。 しばらくしてネネが浮かび上がってくると、やった! 泥を握っている! でも、それは一瞬のこと。 泥は指の隙間から海に溶け出して、あっという間になくなってしまった。

みんながあまりに楽しそうなので、うさぎも勇を鼓して海に飛び込んでみた。 ライフジャケットなしで足のたたない海に飛び込むのは怖かった。 でも、自分で泥を採ってきたい。 人が採ってきた泥じゃなく、自分の手で採ってきた泥を塗りたい。

「では、いきます! 潜りますっ!!」 息を大きく吸って、うさぎは潜った。

海の中は、乳白色。 どっちを向いてもマットな海が広がるばかりで、魚一匹見えない。 シュノーケリングで潜った海の中とは大違い。 まるでここは死の海だ。

鼻がツンと痛くなり、慌てて水から顔を出した。
「ダメだ〜! 底って遠いね。全然そこまで潜れない。 何も見えないから、どっちが底の方向だかも分からない」

すると子供たちが言った。
「‥っていうかママ、あれで潜ったつもり? 水から頭の先が出てなかった瞬間、一度もなかったよ」

李さんたちは、ビニール袋に、採ってきた泥を詰めはじめた。
「それ、国外には持ち出せませんよ」と、ガイドさんが注意した。
「ホテルに持って帰って塗るだけです」とご夫婦。
「でもたぶん、臭くなりますよ」とガイドさん。

そうか、臭くなるのか。 残念なような、ホッとするような‥。 一瞬自分も泥を持って帰りたくなったが、 臭くなると聞いて、うさぎはすっぱり諦めた。

美容に良いのは、この一角だけのマジック。 魔法ってのは、いろいろと制約があるものなのだ。

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