子供の頃、繰り返し見ていた夢がある。 島ひとつ見えない大海原のど真ん中に突然、浅瀬が広がっている夢だ。
その浅瀬は、水の深さがくるぶしくらいまでしかない。 水がひたひたしている、水深10センチにも満たない浅い浅い海なのだ。
波はなく、辺りはしんとしている。 砂の中に、ときどき青く、赤く、キラリと光るものがある。宝石だ。 うさぎはたっぷりとしたスカートを広げ、宝石を拾ってはそこに集めている。
空には雲が多く、青と白が入り混じっている。 厚い雲の合間から、薄い雲のベールを纏った太陽が白くのぞき、 薄黄色い光の筋を下界に投げかけている。 空耳かな、と思えるくらいのかすかな声が聞こえる。 異国の言葉が空から聞こえる。
――これはうさぎのお気に入りの夢で、いつまたこの夢が見られるかとワクワクしていた。 現実にも、こんな場所がどこかにあるのではないか、と時々真面目に考えた。 でも、あるわけがない、という結論に達した。 波のない海なんて、あるわけない。 どこまでも平らな浅瀬なんて、あるわけがない。 そう思い込んでいた。
ところがなんと、あったのだ。 パラオのロングビーチは、そんな感じの場所だった。 宝石こそ落ちていなかったが。 近くに島がありはしたけれど。 大きな大きなリーフに守られて、ここにはほとんど波がない。 水深ゼロメートル、海抜ゼロメートルの不思議な空間。 本当にこんな場所があったのだ‥!
海抜0メートルの砂地が、長く白くゆったりと弧を描いていた。 こっちの島からずっと遠くのあっちの島まで、ほとんど途切れず続いていた。 波のない、静かな海。 砂地は平たく、やっと水から顔を出す程度。
島からずっとこの白い道の上を歩いていくと、数百メートル行ったところで、 水が道をヒタヒタに覆っていた。 光が水に反射してキラキラと跳ねていた。
水のヒタヒタの向こうには、また白い道が続いていた。 向こうの島から、こっちに向かって白い道が向かってきていた。
天井から天使の声が本当に聞こえそうな、そんな感じの場所だった。