まったくどうしてパラオっていう国には、こんなにさまざまな海があるのだろう? まるで海のデパート、海のコレクションだ。
しかも。 その名所を一日で一気に巡ってしまうとは‥。 まったく、この贅沢さはどうよ?!
ジェリーフィッシュレイクは文字通り、 ジェリーフィッシュ(クラゲ)がうじゃうじゃいるレイク(湖)である。 そのクラゲが、ただのクラゲじゃない。 世界でも珍しい、毒ナシクラゲなのである。 かつて海の一部だったところが海から切り離され、湖になった結果、 そこに住むクラゲたちには外敵がいなくなり、毒が退化してしまったと、そういうことらしい。
こういうクラゲも、湖も、ただ見るだけなら、 へえー、ふうーん、で、ただのトリビアに終わってしまうが、 ちょっとすごいのは、この湖でクラゲと一緒に泳げる、という事実である。 尤も、このアクティビティは大変人気が高く、それゆえ 本来秘境であるはずのジェリーフィッシュレイクは今や観光客で賑わい、 その桟橋は一説によれば、「パラオ一の人口密度」なのだそうだ。
うさぎたちの船が湖のあるその島の狭い桟橋に到着したときも、すでに五艘の先客があった。 皆は隣の船、そのまた隣の船へと渡り歩き、桟橋に降り立ったものだった。
そこからほんの10分ばかり、山をしばらく登ってちょっと下ると、 モスグリーンの水をたたえた湖のほとりに到着した。 一見する限りでは、何の変哲のない、普通の湖である。 いままで第一級の美しい海に潜ってきた我らとすれば、 「えっ、こんな汚い水に潜るの?」という感じ。 水の中に目を凝らしてみても、黒い小さな魚と、 特に変わったところのないクラゲが一匹ニ匹見えるだけ。
けれども、うさぎはもう騙されない。 もう知ってるモン。 水面の上から見るのと、水の中で見るのとでは大違い、ってことを。
装備をつけて水に入ると、やっぱり。 ほんの数メートル泳いだあたりから、だんだんクラゲが増えてきた。 水の透明度は悪いが、モスグリーンの水の色は、クラゲのオレンジ色を引き立てる。
20、30メートルも泳いだだろうか。 周りはクラゲだらけになっていた。 もう、ウジャウジャ状態! やっと目に見えるくらいの小さなクラゲから、直径が20センチ近い大きなものまで、 相似形のクラゲたちがポヨンポヨヨンと泳いでいた。
「くらげと一緒に泳ぐなんて!! そんなのイヤ〜ッ!」と言っていた娘たちも、 早くも慣れたよう。 「ひえ〜っ! ひゃあああ〜っ!」と叫びつつも、この珍しい体験に大喜びしている。 ゼリー状のものが素肌にぶつかってくるのが嬉しいらしい。 小さなクラゲは特に人気だ。 確かに、ちっちゃな体をいっちょ前にクックッと伸ばしたり縮めたりしながら泳ぐ姿はけなげで、 微笑ましい。 ただ波間に漂っているわけではなく、クラゲもちゃんと泳いでいるのだ。 心臓をどっくんどっくんさせながら生きている。
皆すっかりクラゲ贔屓になって、水から上がった。 尤も、毒のないクラゲに関しては、の話だけれど。
「子供がこんなに喜ぶと知っていたら、わたしたちも連れてくるんだった」
桟橋まで戻るとき、李さんがつぶやいた。
聞けば、9歳と12歳のお嬢さんをお持ちなのだそう。
「去年、日本の温泉に行った時も、娘たちは留守番でした。
でも次にどこかへ行くときは、わたしたちもきっと娘たちを連れて行きます」
李さんは、そう言ってにっこりした。