シャングリラのプールサイドは楽しい。
様々な言葉が飛び交い、様々な国から集まった人が様々に時を過ごしている。
今日は朝からずっと西洋人の男女混合グループが、プールの中でやぐら作りに挑戦していた。
男が3人土台になり、その肩に2人が乗り、さらにその上に一人が乗る。
それは簡単ではない。今はもうそろそろ夕方。でもまだ一度も成功を見ていない。
2段目まではなんとか乗っても、
3段目の人を乗せて2段目が立ち上がるところでどうしてもバランスが崩れてしまう。
それでもかれらは懲りずにこの難ワザに挑戦しつづけていた。
いい大人がこういう、どうでもいいことに夢中になる。
うさぎはけっこう西洋人のこのノリの良さが好きだ。
4時になると、「トレジャーハント(宝捜し)」ゲームが始まった。
K7がメガホンを持って皆にルールを説明する。
プールの中にまかれたビー玉を集め、一番多く集めた人が勝ち、というゲームだ。
「じゃ、準備はいいかい? それ〜!」
K7の掛け声と共に、モーガンがビー玉を撒いた。
プールの縁にしがみつき、その号令を待っていた人たちは一斉に後ろを振り向き、
けたたましい水音を響かせてビー玉の撒かれたあたりを目指して泳いでいき、水に潜った。
その中にはチャアもいる。
子ども向けのゲームかと思いきや、けっこう大人も一緒になってビー玉を探していた。
数十のビー玉が撒かれたけれど、プールは広い。
そう簡単に見つかるものなんだろうか。
チャアが一つもゲットできなかったら可哀相だなと思いながら、ゲームの行く末を見守った。
しばらくして笛が吹かれ、ゲームセット。
プールサイドに戻ってきたチャアの手には3つのビー玉が握られており、ホッとした。
でも、他の子が持って帰ってきたビー玉の数を見てビックリ!
6つ7つは当たり前、一人で10こ以上も握っている子がいる!
どうしてこんなにたくさん集められたのだろう?
はじめは不思議だったけれど、ナゾはすぐ解けた。
プールの向こうの方から子どもたちを遠巻きにして見守っている父親や母親が
加勢してやっていたのだ。
K7は紙に10数の名を書留め、その脇に集めたビー玉の数を書き入れた。
そしてそれを書き終えると言った。
「それじゃ、今から2セット目、行くよ!」
それを聞くと、ビデオを構えていたきりんと、
傍観を決め込んでいたネネがビーチタオルを振り払い、
「チャアに加勢してやる」と、プールに飛び込んだ。
さて、2セット目はどうなるかな――?
1セット目の成績が悪いから、勝つのは無理だとしても、
たくさん拾ってこられるといいなあ。
今回はきりんとネネが加勢した甲斐あって、 チャアの手には7〜8個のビー玉が握られていた。他の子とだいたい同じくらい。 よかったよかった。 1セット目はチャアだけ少なくて、ガッカリしていたから。
結局一番多くビー玉を拾ったのは、
2回戦分を合わせて30個近くのビー玉を集めたシンガポーリアンの男性だった。
彼は表彰されることになり、プールサイドに上った。K7は彼に言った。
「ではみなさん、これから彼が勝利のダンスを踊ってくれます!
踊ってくれますよね、ミスター?」
皆の前でそういわれては仕方がなく、
いつの間にやら用意されていたラジカセの音楽に合わせて、彼は踊るハメになった。
それが終わると、ようやく賞金の受け取り。
彼は、賞金10ドルを、50セント硬貨ばかりでじゃらじゃらと受け取った。
チャアは、優勝しなくてよかったと、胸をなでおろしていた。
◆◆◆
宝捜しが終わると、K7が子どもたちに向かって言った。
「別のゲームがやりたい人〜!」
西洋人の男の子が二人、「イエ〜イ!」と歓声を上げ、K7のそばにやってきた。
けれど、他の子どもたちはみな、様子を伺っている。
ゲームって一体何のゲームよ?、とみな賢明にも警戒しているらしい。
「ゲーム! みんなやらないのかい?」と何度か持ちかけたけれど、
皆が警戒を解こうとはしないので、K7は仕方なく言った。
「次のゲームは、ダンシング・コンペティションだよ!
踊りの上手な子はここへおいで! 勝者には賞金が出るよ!」
同じことを西洋人客の多いフィジーあたりでやったら、きっと盛り上がったに違いない。
でもここはシンガポール。今ここにいる人の半分はノリの悪い東洋人だ。
先に立候補した男の子二人は「イエーイ!」と歓声を上げたが、
他の子たちは「皆の前で踊るなんて、まっぴらごめん――」、そういう表情をしている。
しつこく広報してみたものの、反応ナシに諦めて、K7は言った。
「‥まあいいや、二人だけだけど、この二人に踊ってもらいましょう。
‥きみはどこからきたの?」
男の子たちは二人とも、ニュージーランドだと答えた。
すると
「二人ともキウイなのかい? そりゃつまらないや!
こういうのは国対抗じゃなくっちゃ!」とK7。
「おーい! オージーはいないかい?」
プールの彼方から、大人が数人「イエーイ!」と手を叩いた。
「なんだ、いるじゃないか! そこの男の子、踊ってくれるかい?」
でも、大人たちに囲まれたその太めの男の子は、自分はやらないと言って抵抗した。
仕方なくK7は彼を諦め、「じゃ、イギリス人!」と言った。
ネネくらいの女の子の母親が手を上げたが、ご当人さんは露骨に迷惑そうな顔をした。
「フランス人! ‥ドイツ人は?」と諦めないK7。でも誰も手を上げない。
と、脇の男の子の小さい方が叫んだ。
「ドイツ人ならベティがいるよ!」
「そうか、ベティ! ベティ、出てきてくれないかな?」
でもベティは、今はプールエリアにいないらしかった。
「シンガポーリアン! 誰か? じゃ、タイワン! チャイナ!」
K7は国の名を挙げていく。おい、日本はどうした?
「‥日本!」
K7はついに日本の名をあげた。
でもネネが知らん顔を決め込み、チャアが泣きそうな顔をすると、彼はそこで諦めた。
「まあ、しょうがない。始めよう。キウイ同士の対決だけど」
そんなわけで盛り上がりに欠けるダンスコンペティションは始まり、 盛り上がらないまま終わった。拍手の量で勝ちを決めるのだが、その拍手もまばら。 勇んで拍手をしているのは、挑戦者二人の身内であるニュージーランド人、 それにせいぜいオージーの界隈だけ。うさぎたちも日本を代表して、 一応お付き合い程度に拍手をしておいた。 軍配は小さな子の方に上がり、二人は両手いっぱいの10セント硬貨をもらって帰った。
ニュージーランド、オーストラリア、
イギリス、フランス、ドイツ、
シンガポール、タイワン、チャイナ、
そして最後に日本‥。
K7が呼びかけた国の名は、そのまま彼の考えるところの、ノリのいい国の順だったと思う。 その序列において、ヨーロッパ勢はともかく、台湾や中国ごときに負けたのが、 なんとも悔しいうさぎであった。