プーケット空港は、こじんまりとした空港で、ターミナルビルに飛行機が横付けされたのでラクだった。 バンコクではバスでターミナルまで行くのが面倒だったけれど。
入国手続きは、どこから飛んできたかによって二箇所に分かれており、 〔成田からのお客はこちら〕と書いてある看板には〔フランクフルトからの‥〕という表示もあった。 随分遠くからも来るものだ。
入国手続きのカウンターにはヨーロピアンがたくさん並んでいた。
「英語の人がこっちを見てる」
と、チャアが言うので見ると、隣の列に並んだ金髪のご婦人が、おどけた表情でチャアをからかっていた。 チャアはきりんの後ろに隠れたり顔を出したりして大喜びだ。
空港ビルを出てふと時計をみると、もうすぐ7時だった。成田を発ってから約10時間かかって到着したというわけだ。
ビルの入口には20名ほどのタイ人が、ホテルやツアー名が書かれたプラカードをてんでに掲げて立っており、
JTBの係員は、と捜すと、そのうちの一人が
「キリウササンね〜?」と声を掛けてきた。
「車にご案内します」と言うガイドさんの後に着いて外に出ると、そこには大型の観光バスが停まっていた。 おお、これに乗るのか、と思いきや、ガイドさんはその脇をすり抜け、10人乗りくらいのワゴン車のドアを開けた。
えっ‥これ?!
ちょっとびっくり。
TG641便で着いたJTBのお客は、うさぎたちを含めて二組だけらしい。
しかももう一組はホテルが別だ。‥JTBって、旅行業界最大手のはずなんだけどな。
その二組にタイ人のガイドが二人ついている。思わず人件費の心配をしたりして。
オールカラーのカタログを思い浮かべては、広告費の心配までしてしまう。
JTB 、儲かってまっか〜?
車にのりこんでから30分、曲がりくねった山道をぐにぐにうねうね上がったり下がったり。 うさぎは酔い止めを飲んであるからいいが、ネネは「気持ちが悪い」と言ってぐったり、チャアは眠ってしまった。 幹線道路の風格を備えていたのは、空港の前だけで、あとは舗装こそしてあるものの、狭い山道だ。
道幅が狭いのと、夜道のせいもあって、車はものすごいスピードで走っているように感じた。 メーターを見ると時速60キロ位なのだが。 同じ道を二人乗りのバイクがよく走っており、うさぎたちの車はそれを容赦なく追い越して行く。それがスリル満点だ。
なんとこの国には「バイクタクシー」なるものがあって、バイクの後ろにお客を乗せて走るらしい。
「バイクタクシーは危険だから、乗らないように」とガイドブックに書いてあったが、確かに危険そうだ。
バイクの後ろに乗っているのは大抵若い女の子で、何と横乗り! 今にもバイクからずり落ちそうだ。
我々の車が巻き起こす風に煽られて転倒などしなけりゃいいが‥と、余計な心配をしてしまう。
人家も疎らな暗い夜道の30分はずいぶん長く感じられた。 プーケットは島のはずなのに、海などどこにも見えず、あたりは山だ。
空港からバンタオビーチまではもっと近いものだと思っていたうさぎは心配になってきた。
この車、本当にちゃんとホテルに向かっているんだろうか。
本当に、この車、JTBのなんだろうか。
と。中華系とおぼしき日本人そっくりさんと、肌の色が浅黒くて目のはっきりした人。 どちらの人も英語も日本語もとても上手だけれど、この人たちがJTBの係員であるという確かな証拠って、 考えてみれば何もないんだよね‥。 JTBのお客が二組っていうのが第一信じられないし、 ツアーガイドになりすまして日本人の客を誘拐する手口があるって何かで読んだの、今になって思い出しちゃった‥。