Minnesota  ホストマザーに会いに

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【 大きなプレゼント 】

月

北緯45度といえば、日本の最北端と同じである。 高緯度のここは、夏の日が長い。 あと一月たらずで夏至を迎える今のような時期、9時ごろまでは夕方のような明るさだった。

宿に到着したのは夜の10時前。 ほんの30分前にパーキンズを出発した頃は夕方のようなほの明るさがまだ残っていて フラッシュなんか焚かずとも充分写真が撮れたものだったけれど、 さすがに今は日もとっぷり暮れ、辺りは真っ暗になっている。

宿の名前はレブロンハウス。 インターネットで見つけて予約した、 ミネアポリスの中心にほど近い閑静な住宅街に立つベッド&ブレクファストである。 うさぎは、マムの家に比較的近かったこと、ネコを飼っていることを好感してここに決めた。 メアリーはそれをうさぎからのメールで知ると、 それが治安が悪い繁華街に位置しているのではと心配し、わざわざ下見にやってきた。 そして太鼓判を押したのだ。 大丈夫、ここは治安のよい地域である、と。

100年前に建てられたヴィクトリア朝風の住宅、 そのノスタルジックな玄関の前に立つと、うさぎはドキドキし、 ドア脇の呼び鈴を鳴らそうとして、ふと躊躇した。
「どうしよう。もう夜中なんだわ。管理人さん、寝ちゃってるかもしれない」
夜も昼も存在しない飛行機という異世界からこの地に降り立ってまだ4時間たらず。 そこが夕方のような明るさだったものだから、すっかり忘れていた。 今はもう、人が寝る時間なんだってことを。

けれど、メアリーは「大丈夫」と請けあった。 「さっき車の中で、電話をしておいたから」

――この人は本当に抜かりがない。 ついさっきだってそうだ。 彼女は今しがた、うさぎたちにすごいものをプレゼントしてくれた。

◆◆◆

「あなたに地図をあげるわ」とメアリーは言ったものだった。
「ありがとう。でも地図ならわたしも持ってきたのよ」とうさぎが言うと、
「インターネットでプリントアウトしたの」とメアリー。
「まあそう! わたしもインターネットでプリントアウトしたのよ。ほらっ」 うさぎは自分の小さな手帳に張った地図を見せようとして、 まだ車に置いてあったバッグの中をゴソゴソやり、 手帳を見つけて振り返った。 すると‥・

びっくりするようなものが目に入った。
「じゃじゃーん!」 シンディがニコニコしながら広げたそれは、大きな大きなロードマップだった。

それは縮尺の大きな地図を、 レブロンハウスからマムの家、そしてメアリーの家まで、道路に沿って繋ぎ合わせたものだった。 だからヘビのように長くて、ヘンな形をしていた。 シンディが思いっきり両腕を伸ばしてやっと、広げられる長さだった。 上質紙に印刷された十数枚もの地図がセロテープで繋がれ、道に沿ってサインペンで赤い線が記入してあった。 うさぎはびっくりして、そして感激して、何と言ったらいいのか分からなくなった。

うさぎは開きかけた手帳を思わず閉じた。 小さな手帳に収まるようにと調整した縮尺の小さな地図。 こんなものでマムの家まで行き着けると思ったなんて‥。 本当に何も分かっちゃいない。 自分に呆れてしまう。 「マムの家にたどり着けなかったらどうしよう」とさかんに心配しておきながら、 申し訳程度の、ほんの小さな地図しか持ってこなかったなんて。

それに引き換え、メアリーたちが作ってくれた大きな地図は実に素敵だった! これさえあれば、絶対大丈夫! 道に迷ったりしない! ――そう確信できた。 これを持って行く明日のドライブが、なんだかとても楽しみに思えてきた。

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