我が家では、海外から日本に帰ってくる際、 コインを一種類づつ、記念にとっておくことにしています。 持って帰ってきたコインを時々並べて眺めると、楽しいんですよね。 小さなコインの一枚一枚にその国の文化が詰まっているようで。 文字、紋章、肖像。国を象徴する花、動物、建造物‥。 その国の誇りが小さなコインにこめられています。
たとえばフィジーの硬貨には、エリザベス女王の横顔が彫りこまれています。 元英領らしく、英国の香り漂う硬貨です。
表は全部エリザベス女王。でも裏を返すと‥?
ところが。 上のコインの上にマウスを乗せ、コインを裏返してみてください。 そこには南太平洋の香り漂う風情が‥。 南太平洋特有の飲み物"カバ"を作る鉢や、魚や、木の太鼓など、素朴な道具を描かれていて、 表側とはまた違ったフィジーの一面が見られます。
ところで、ふと気になったのですが、コインってどっちが表(おもて)でどっちが裏なんでしょうね。 フィジーのコインはエリザベス女王のほうが表のような気がするのでそう書きましたが、 本当にこっちが表なのでしょうか。
これ、韓国ドラマ「冬のソナタ」で主人公カップル・チュンサンとユジンがコインを取り出し、 「表が出たら結婚できて、裏が出たら出来ない」という占いをしようとするシーンを見たときから ちょっと気になっていたんですよね。
主人公たちは、二つのコインの裏と裏を貼り付け、絶対に裏が出ないコインを作りますが、 わたしはこう思ったものです。 そんなことをしなくても、実際に投げてみて、出たほうが「表(おもて)」だと思えばいいじゃないか、って。 コインなんて、どっちが表でも裏でもいいんだから、自分たちで決めればいい。 そして、どっちが出ても、結婚したいなら結婚すればいい、と。
でも、各国のコインを眺めていると、なんとなく、 おもてっぽい側と、裏っぽい側とがあるんですよね。 それで、実際はどうなんだろう、と思って調べてみました。
そしたら、面白いことが分かりました。 日本の貨幣は、「年号のある側が裏」*1なのだそうです。 でもこれ、わたしのイメージと違います。 わたしは、額が算用数字で大きく書かれているほうが表のような気がするんですよね。 5円玉以外は逆のような気がする。 これは、かつて菊のご紋の彫りこんであるほうが表と決められており、 年号をその裏側に入れていたことの名残だそうです。
こっちが表だそうです
なんとこっちが裏
では他の国ではどうでしょうか。
海外では一般に、
Obverse: The front or face side of a coin, generally the side with the date and principal design.
(オブバース:コインの表もしくはおもて側。通常、発行年と主だったデザインの施されている面である)In slang, the obverse is the "heads" side.
(オブバース(おもて)とは、いわゆる"頭側"である)
なのだそうです。 なんと、この定義に従い、発行年のあるほうを表と考えると、 先の日本造幣局の定義とは、表と裏がまるっきり逆ということになります!
ちなみに、"heads side"というのは、人物が彫りこまれている側のことです。 「頭」の絵柄だから"heads side"。 動物などがよく描かれるその裏側は"tail"(尻尾)と呼ばれているそうです *2。 洋画ではよく、「表か裏か」と尋ねるコイントスの場面がありますが、 あれは、"head or tail?"と言っているのですね。 日本語に訳すとき、"head"を"表"、"tail"を"裏" とするようです。 エリザベス女王の横顔の側に発行年も記されているフィジーのコインはやはり、 「エリザベス女王の横顔が書いてある側が"head"(おもて)」と考えていいのですね。
エリザベス女王とビーバー。どっちが表?
けれども、上記の二つの定義に当てはめようとすると矛盾が起きるコインもあります。 たとえば、カナダの通貨です。 カナダのコインは"head"と"tail"の別ははっきりしていて、 たとえば5セント玉は、エリザベス女王の肖像が"head"、ビーバーが"tail"と、 迷うことはありません。 でも発行年はビーバーのほうに記されているので、上記の"obverse"の定義には当てはまらないのです。
ユーロの新貨幣には、 大きく算用数字が彫りこまれている各国共通のデザインと、 国ごとに異なるデザインの面があり、 そのどちらを"obverse"(表)、どちらを"reverse"(裏)と呼ぶかは決まっていないそうです *3。 ただ実際には各国共通の側をおもてとしているところが多いように思えるし、 見た目からしても、「普遍的なデザイン」という観点からしても、それが妥当な感じも受けます。
けれども、国によっては国ごとに異なる面に偉人の肖像を彫りこんでいるところもあります。 たとえば、オーストリアの2ユーロの片面には、モーツァルトの肖像が彫りこまれており (オーストリアのユーロ貨幣 参照*4)、 その脇には発行年も印字されています。 ‥となると、「国ごとに異なる面がおもて」という見方もできますね。
もしかしたらユーロは「両側ともおもて」と考えるのが一番合理的かもしれません。 現在のヨーロッパは統合の過渡期にあり、 ヨーロッパの国々は「ヨーロッパ国」としての結束と、それぞれの国としての誇りを持っています。 そのどちらの側面も正しく、どちらの側面も重要なのですから。
ところで、問題の韓国のコインはどうでしょうか。
100ウォンには民族的英雄・李舜臣の肖像が描かれていて
(大韓民国のコイン
参照*4)、
こちらを"head"(おもて)とすると、
算用数字で額面が大きく書かれた面のほうが"tail"(裏)ということになります。
でも発行年はもう一方の面に書かれているし、見た目からしてもどことなく李舜臣の肖像のほうが、裏っぽく、
わたしなら、算用数字が書かれたほうを「表」と呼びたい。
はたして「冬のソナタ」の主人公ユジンはどちら側が見えるようにコインを貼り付けたのでしょうね。
いろんな国のコインをもてあそんでいて気づいたことですが、 絵柄の天地が裏と表では逆になっているコインもあるようです。
たとえば、アメリカ合衆国のコインは天地が逆です。 お隣カナダのコインはどうかと思ったら、こちらは逆ではありませんでした。
この二つの国のコインは見た目がよく似ています。 為替レートの差により、USドルと比べてカナダドルは同じ1セントでも、3割ほど価値が低いので、 間違えると被害甚大なのですが、実に良く似ている。 手元にある1セント玉、5セント玉、10セント玉をあわせてみたら、大きさがぴったり同じ、色も同じ。 合衆国のコインのほうが刻印が深く、丸みを帯びていて、 それに比べるとカナダのコインはペラペラした印象を受けますが、間違えても不思議はないくらい似ています。
なのに、こんなところが違うんですねえ。 これ、想定するコインの裏返し方が異なるんじゃないかと思います。 わたしはコインをひっくり返すとき、縦に持って裏返すほうが裏返しやすい。 でも、試しに夫にやってもらったら、彼は当然のように横に持って裏返していました。 わたしのような返し方をする人にはアメリカのコインのほうが合理的で、 夫のような返し方をする人にはカナダや日本のコインのほうが合理的ということになりますね。
アメリカのコイン(左)は縦に裏返す。カナダのコイン(右)は横に裏返す。
コインは本当に面白い。 本当は、紙幣も同じくらい面白いだろうと思うのですが、 いかんせん額が張るため、日本に持って帰ってこられません。
でもわたしにはインターネットがある。 世界の紙幣を、購入することなく鑑賞できます。 持っていないコインも含め、世界中のコインを見ることができる。 まったく良い時代になったものです。
以下は、わたしのとっておきお気に入りサイトだけを厳選しました。
ところで、紙幣やコインをスキャナで読み取ったりするのは 法に触れるのではないか、とバクゼンと考えている方も多いのではないでしょうか。 通貨偽造を禁止している刑法第148、9条に抵触するのではないか、と *5。 わたし自身なんとなく、そうかもしれないという気もしていましたが、実際のところはどうなのでしょう。 今回、その辺も気になったので調べてみました。 すると、こんなページに行き当たりました。
Q.日本の法律では、紙幣をコピーすることは、その用途に関わらず コピーという行為だけで罰せられると何かで聞いたことがあるのですが、 スキャナで紙幣をスキャンしてgif画像をホームページに載せることいけないのですか? また、コインについてもそのような規定があるのでしょうか?
A.紙幣をコピーしてそれらしい大きさに切り、紙幣と紛らわしいものを作り出した場合には、 通貨及び証券 模造取締法により処罰されることになります。
コインについても同様でゲームセンターのコイン等に色を塗るなどして、紛らわしいものを作り出せば、 処罰されます。
しかし、これはあくまで、紙幣、コインと間違えるような物体を作り出すことを禁止しているだけで、 画像を載せること自体は、何も問題ないと思われます。(バーチャル法律相談インターネット編 より引用*6)
この法律事務所の見方では、問題ないとしているようです。
実際のところ、インターネットで公開される画像というのは
画面上ではかなり精密に見えても、プリントアウトしてみると荒さが目立ちます。
紙幣の画像も、インターネットに適した通常のファイルサイズであれば、
贋金の元となるようなシロモノには到底なりえません。
なので、「見本」などと真ん中に大きく書かずとも、
悪用される心配はほとんどないのではないかな、とわたしも思います。
日本にいながらにして世界の紙幣や貨幣が見られるのは楽しいことなので、 今後も、妙な判例ができたりせず、インターネットで安心して紙幣や貨幣を楽しめることを心から祈っています。
*1 ぞうへいきょくたんけんたい、
日本銀行金融研究所 貨幣博物館参照。
*2 コインの話参照。
*3 この辺に関しては、
The Euro Coin and the Inadequacy of our definition of "Obverse"、
European central bank - Euro banknotes & coins等を参照。
*4 ワールドコインドットネットより
*5 刑法第16章
by(法庫.com)
*6 秋山法律事務所より
minoさんが、 日本の貨幣の裏表を定義する自説をご披露くださり、 これが「なるほど〜」な説でしたので、ご紹介したいと思います。
実は私は、コインの表裏にはこだわりがあって。
うさぎさんの書かれている日本のコインの「発行年が書かれている方が裏」という決まりは知ってたのですが、
そのルールがイヤで仕方ないんです。
「何故"表"じゃなくて"裏"定義するのか。」 というのがなにか私の中で納得いかないんですね。で、考えましたよ。何か"表"を肯定的に定義するルールはないか。 (〜が無い方が”表”というのは不可)
そして、見つけました。
「その貨幣の価値が正確に(漢字で)書かれている方が表」
というのです。
例えば100円玉なら、言ってみれば
「裏には"100"と書かれているだけで、100円なのかどうか分からない。100銭かもしれない。」 んですよ。 で、表にはちゃんと"百円"と書かれている。と。まぁ、こんなことを言ったからといって、造幣局の見解が変わるわけでもないでしょうが、 私としては、「貨幣の価値が書かれている方が表」で行こうと思ってます。
(いつものきりんとうさぎ掲示板より)
ね? 非常に合理的且つ納得できる考え方でしょ?
実際には流通していないから忘れてしまいがちですが、
アメリカのセントやイギリスのペンスのように、日本にも「銭」という補助通貨があるんですよね。
経済の世界では今なおちゃんと使われています。
それを思い出すと実に「なるほど〜」ですね。
更に、わたしがminoさんの説をいいなあと思ったのは、 「国の言葉で書いてあるほうが表」というのがなんかカッコいい〜、というのもありました。 実は外国には、アラビア数字を使わず、その国の文字で額面を表記したコインもけっこうあって、 そういうところに誇り高さを感じたりしていたんですよね。 日本のコインも、漢字で書かれているほうが表、っていうのは、 なんだかちょっとカッコイイ。 我々日本人はアラビア数字よりもずっと長く、漢字と付き合ってきたのですから。
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